個人事業主の所得は売上ではない!個人事業主の所得の算定方法【交通事故事件の実務】
目次
交通事故事件を扱っていると基本となる所得を算出する必要がある場面があります。
具体的には、
- 休業損害で、1日あたりの積極的な損害を算出する場面
- 後遺障害逸失利益で、後遺障害による労働能力の喪失で、ある期間に100%の労働能力を有していたら稼ぐことができたはずの消極的な損害を算出する場面
という場面で所得の算出が必要になります。
ところが、赤い本には、明確な考え方が記載されていません。
今回は、個人事業主の場合の所得の考え方を確認していきましょう。
個人事業主の所得=売上ー経費+固定費
所得を算出するにあたり必要となる資料
原則として、前年度の所得が基準となります。
そのため、基本的には、交通事故のあった前年度の確定申告資料が必要になります。
例外的に、前年度を基準とするべきではない事情があるのであれば、主張・立証で乗り越えるための論理と補足資料が必要になります。
また、確定申告をしっかり行っていない方も時折います。
そのような場合には、これに代わり得る資料を収集することになるでしょう。例えば、会計帳簿などです。
税務申告上の所得の考え方
税務申告上の個人事業主の所得は、売上ー経費ー各種控除です。
これは、手許に残っている利益に対して課税をするという考え方から導かれています。
交通事故事件の所得の考え方
しかし、交通事故事件においても同様の算出方法によってしまうと、事故のせいで働くことができなくなった(経営努力のせいではない)のに、稼働しなくても固定費がかかってしまいます。
また、各種控除については、課税にあたって、課税負担の適切化のために行うものなので、交通事故事件においては当たりません。
そこで、個人事業主の所得は、
売上ー経費+固定費
という算定式によって算出されます。
また、書面で使用はできないですが、固定費は、経費の一部ですので、簡易的に
売上ー固定費以外の経費
という計算によっても算出できます。
固定費とは
交通事故事件における所得を考える場合の固定費とは、明確な定義はありません。
したがって、この会計項目を固定費として考えるという固まった考え方はありません。
そのため、
- 請求する側であれば、固定費を経費にニアリーイコルに持っていくべきですし、
- 請求される側であれば、固定費ではない(経費のほとんどは稼働しなければ使わないものだ)と主張していくべき
です。
固定費の種類
固まった考え方がないとはいえ、ある程度の種類を例示しておきます。
- 地代家賃
- リース料
- 損害保険料
- 従業員給与
- 減価償却費
- 租税公課
- 利子割引料
この辺りは、固定費として認められやすいでしょう。
固定費の範囲
請求される側としては、固定費をできるだけ少額に抑えることで、損害額を抑えることができます。
その際、
- この項目は、固定費に入らない
- 入るとしても、期間で区切るべきだ
との主張が考えられます。
前者は、項目の問題ですから、単にその項目を固定費として認めるべきではないという主張になります。
後者は、固定費に含めないとしつつの予備的反論でも主張し得ますが、損害拡大防止論の観点からの主張です。そんなに長期間休業しなければならないのだったら、例えばリース料であれば、この時点では、解約してそれ以上のリース料を発生させるべきではなかったというような主張ですね。
赤い本の取扱説明書的な書籍おすすめ
交通事故事件は、とにかく赤い本を使いこなせるようになるのが最初の到達目標です。
しかし、何もなしに赤い本を使いこなすのは、意外と難しいです。
そこで、赤い本を前提とした取扱説明書的な書籍をあげておきます。
- 損害項目ごとに解説されているので、訴状等を作成していく中でわからない場合や、
- 1つの項目だけ部分的に参照したいという場合
に使える書籍です。
まとめ
交通事故事件は、考え方が分かってはじめて必要な資料が分かります。
最初のうちは、いちいち調べてからでないと動けなくて大変ですが、慣れてくれば定式的な場面も多くやりやすくなっていくでしょう。
ですので、上記で挙げた書籍など活用しつつ、交通事故事件に慣れて行ってもらえればと思います。
お仕事頑張ってください。
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