建築関係事件におすすめの書籍4選
目次
少し専門的な分野ですが、一般民事を扱っていると建築関係の事件が舞い込むことがあります。
注文住宅の追加注文の有無、仕事の完成・未完成、リフォーム工事の追加費用の完成後の請求など意外と無料相談会で相談を受けていても相談されることがあります。
そこで、建築関係の事件の相談や事件を扱ううえでおすすめの書籍を紹介していきます。
全分野を総覧する際におすすめ
建築関係事件に含まれる事件類型
法律専門家から見た建築分野の流れ
注文住宅を例に見ていきましょう。
- 注文住宅の会社が、営業等により顧客を見つけ、受注する
- 注文住宅の会社やその関連会社等が、顧客の要望に沿った設計図を作成する
- 作成した設計図について、確認申請を受ける
- 施行する
- 完成後、引渡し、支払
- 完成後、瑕疵や契約不適合が発見される
上記のいずれもの段階で、注文する側・される側で法的問題を抱えることがあります。
建築関係事件に含まれる事件類型
合意の有無
建築関係の仕事では、決めるべき事項が多く、1つ1つについて明確な取決めがなく、おおざっぱな仕事となりやすいことや消費者側との知識に開きが大きいことなどから、合意の有無が中心的な問題となりやすいです。
そのため、
- 当初の工事内容(本工事)
- 本工事以外に施工した工事の有償性(追加工事の合意の有無)
- 設計契約の内容や範囲の争い
などが事件化します。
瑕疵担保責任、契約不適合責任
また、引き渡し後は、契約不適合責任(旧 瑕疵担保責任)も問題となります。
厳密にいうと引き渡し自体も争いになりますが、契約不適合責任に伴い完成の有無も問題となります。
そのため、
- 完成の有無として、当初の契約の内容
- 当初の契約時の完成度としての要求水準
- 引渡しの有無
- 損害論等
が問題となります。
総覧する際におすすめの書籍|弁護士・法務担当者のための不動産・建設取引の法律実務
このように建築関係事件の事件類型は、介入する場面も多く、多岐にわたります。
そのため、この分野全体に関し、薄い書籍はなかなかないというのが現状です。
もっとも、介入する場面が多いところ、これを1冊で扱おうという書籍が多いために1冊が分厚くなる傾向にあります。
そこで、総覧する際におすすめするべき書籍としては、
「1個1個の論点について詳細な検討が記載されている」
というよりは、
「この場面でこの事項が問題となり、その解決のための法的手段は、こういったものがあるのだ」
ということが記載されている書籍をおすすめするべきということになるでしょう。
そのような観点で、比較的新しい書籍ですが、次の書籍をおすすめします。
各論的な個別論点を調査するときにおすすめの書籍
上記の書籍で、総覧的に問題となるべき場面、取るべき手段が分かったあとは、目の前の事件で問題となるべき論点を洗い出し、当該論点について依頼者に有利な手段を調査・検討することになります。
裁判所での運用の解説|判例タイムズ1453-1455
東京地裁の専門部における運用の解説がなされている書籍です。
後述する他の書籍は、発刊がわりと古いものもあるため、ある程度最新の運用状況が分かる資料として目を通すといいでしょう。
特に、追加変更工事一覧表の活用などは、裁判手続きの早期の段階で作成を始めなければ、後々の訴訟進行の遅れの原因となるところですが、地方の裁判所では、同表の活用の発想すらなされないことがあり、当事者から積極的に提案する必要がある場合も少なくありません。
裁判所に対する説得は、裁判所の運用状況を伝えることにより解決できることが多いです。
当該事案に該当する回のものだけでも目を通しておくと良いでしょう。
裁判官による解説2冊|専門訴訟講座、LP
判断権者たる裁判官による解説がなされている2冊です。
被るところも少なくありませんが、前者が詳細、後者が少し薄いという具合です。
私の体感としては、前者が学者的な文献に近く、後者が多少実務よりかなという感覚です。
いずれにしても、詳細な文献かつ信頼性のある文献の観点でいくとこの2冊となりますので、裁判手続きで引用するとなればいすれかによることとなるでしょう。
なお、これは私の感覚かもしれませんが、弁護士の立場で当該事案の検討を始める時には、どうしても当事者目線で記載された文献からでないと、検討がしづらいと思います。
そのため、いずれの文献を読むにしても、先行して前記総覧用の書籍から目を通す方が、頭の整理ができて内容が頭に入って来やすいのではないかと思います。
まとめ
このように、建築関係事件についてまとめられた書籍は少ないです。
特に、当事者目線で記載された書籍は、本当に限られています。
専門用語が多い分野であり、なかなか取っつきにくい分野ではありますが、そのハードルを乗り越えれば、自分の得意な分野の一つとしていけると思いますので、ぜひ頑張って下さい。