接見要請から受任までの流れをまとめてみました
目次
最初の個人事件(一人で担当する事件)が、刑事事件の当番や国選事件という方は、多いと思います。
刑事事件は、公判当日だけでなく、捜査段階から手続きが厳格に定められています。
もっとも、全く刑事事件を担当したことがない新人弁護士には、とてもわかりにくい構造になっています。
そのうえ、時間的余裕がない中で、ひとつひとつの手続きを不備なく進めていく必要があるので、初めて一通り手続きを終えたあとには、本当に頭が疲れ切ってしまいます。
そこで、本記事では、当番や国選など事件を扱うことになる制度ごとに、絶対に抑えるべき受任に至るまでの手続きの流れを追っていき、少しでもみなさんの頭の疲労を緩和できたらと思っています。
刑事事件を扱うことになる制度の種類
制度の種類は4種類です
大きく分けて、刑事事件を扱うことになるのは、
- 当番弁護
- 被疑者国選
- 私選
- 被告人国選
の4種類です。
1 当番弁護
当番弁護は、各単位弁護士会ごとに制度が異なります
当番弁護は、各単位弁護士会ごとに制度が設置されています。そのため、各単位弁護士会ごとに細かい手続き面は異なる部分があると思いますので、各自で確認してください。
以下は、私の所属する弁護士会の制度を元に解説しますね。
当番弁護について簡単な説明をします
当番弁護について、簡単に説明します。
まず、被疑者(その家族など)から弁護士会に対して、弁護人を紹介してほしい旨の請求があります。
その場合に、弁護士会が、弁護人を紹介してあげる、ということで、弁護士に連絡がいくという制度になります。
そのため、当日の連絡は、弁護士会から来る、ということになります。
2 被疑者国選
被疑者国選は、法テラスの事業です
被疑者国選は、当番弁護と異なり、法テラスが行っている事業です。
以前は、一部の刑事事件しか対応していませんでしたが、最近では、勾留決定が出た事件の全件について、国選弁護人が選任されることになりました。
また、国選弁護人の制度を利用するためには、被疑者が50万円の資力を有さないことが必要です。
そのため、国選弁護制度を利用することができるためには、
- 勾留決定が出ていること
- 50万円の資力を有さないこと
- 他の弁護人が就いていないこと
の各要件を満たしている必要がある、ということになります。
国選事件は、法テラスとの契約です
国選は、法テラスとの契約なので、被疑者との契約ではありません。
そのため、そう簡単には辞任ができない、報酬が決められている、など依頼者と直接契約する場合とは異なる部分に気を付ける必要があります。
なお、さらに詳しいことは、他の記事で解説します。
3 私選
私選は、依頼者と直接契約します
私選は、誰かの紹介など、弁護士のもとに直接来る事件です。当番から国選などを用いずに直接受任する場合もこの場合に当たります。
そのため、普段、国選事件をやっていて急に私選事件がきたという場合に、手続きが異なり、戸惑う場面も少なくありません。
報酬なども自由に決められます。ただし、当番弁護からの私選での受任の場合は、各単位弁護士会ごとに弁護士費用の基準や特別会費として納める金額が決まっていたりするので、注意してください。
なお、さらに詳しいことは、他の記事で解説します。
4 被告人国選
被告人国選は、被告人段階で急に選任されます
被告人国選は、上記の1から3と異なり、捜査段階が終了したあとに選任されます。
そのため、既に裁判期日が決まっているという場合が少なくありません。
なお、被告人国選では、公判のみが報酬算定の基準となるため、被疑者国選と異なり、接見の回数によって報酬が上下することはありません。
しかし、後述のように途中で解任されることもあるので、その場合は、接見に1度でも行ったことなどが基準となります。
また、さらに詳しいことは、他の記事で解説します。
それぞれの制度の受任までの手続きの流れ
共通する大きなイメージ
それぞれの制度は、
- 逮捕期間
- 起訴前の被疑者の勾留期間
- 起訴後の被告人の勾留期間
のいずれかの段階で、事件を担当することになります。
いずれの段階にせよ、捜査機関と裁判所に対し、自分がその被疑者・被告人の弁護人に就きましたよ、ということを知らせないといけません。
相手が組織である以上、厳格ですので、忘れずに行えるようにしておきましょう。
弁護人として就任したことを捜査機関、裁判所に知らせる
国選と私選で異なります。当番は、当番弁護としての出動後、国選とするのか、私選とするのか、でそれぞれ対応が異なります。
国選は、国選弁護人に選任されること
国選事件(被疑者・被告人国選)では、法テラスより国選事件の打診を受けます。
これに対して、引き受けることを伝えると、法テラスから裁判所に、自分を国選弁護人として選任することを求めてくれます。
その後、法テラスから国選弁護人選任依頼通知書のFAXが送信されます。これを受け取った時点で、国選弁護人として活動できます。
最後に、裁判所が、自分を国選弁護人に選任することを決定し、その後、国選弁護人の選任書を受け取ることになります。
被疑者国選から引き続き被告人国選の選任も受ける場合は、特に手続き上何ら行うことなく、弁護活動を行うことができます。
もっとも、被疑者国選事件自体は終了しているため、起訴時点から2週間以内に被疑者国選としての報告書は、法テラスに提出する必要があるので、留意しましょう。
また、上記の通り、通知書を受け取った時点で、弁護活動を行うことができますので、選任書の受領より初回接見を優先してしまって大丈夫です。
なお、被疑者国選における接見の報酬の基準となる弁護期間は、初回接見の日が起算点になります。そのため、できるだけ早く初回接見に向かいましょう。また、後述するように、被告人国選の場合でも初回接見は可能な限り早い方がいいです。
私選は、弁護人選任届を出すこと
私選では、国選事件と異なり、裁判所から選任されるという場面がないため、自分で関係機関に対し、弁護人になったことを伝える必要があります。
まず、初回接見の際に、被疑者に、弁護人選任届に、署名と指印をもらいます。通称、「弁選」ということが多いので、ここでもそう使いますね。
指印は、それだけだと本人の指印かどうか分からないため、留置係の方に指印証明をしてもらう必要があります。「指印証明をください。」と、留置係の方に伝えれば、大丈夫です。
ここが忘れがちでとても重要なのですが、弁選は、
- 検察官送致前=担当警察署の担当部署
- 検察官送致後=担当検察庁の担当部署
に原本を提出する必要があります。特に検察官送致前の場合について忘れやすいので、気を付ける必要があります。留置係において、弁選を差し入れて、宅下げをすることと、提出をすることは別手続きです。
また、原本を提出してしまうので、予め写しをとっておき、その写しにも受理印をしてもらいましょう。弁選(写し)が手元にないと弁護人であることの証明ができません。
当番弁護では、その後国選とするか、私選とするかで手続きが変わります
当番弁護では、資力に関係なく、派遣されるため、その弁護士が私選として受任するのか、国選として受任するのか選択できます。
そのため、いずれかの受任方法を選択するかによって、その後の手続きが異なることになります。
また、受任するのかどうかという、受任義務の有無については、各単位弁護士会ごとに運用が異なるところです。
受任をしない、という場合には、別途、不受任の方向での手続きがありますので、併せて確認していきましょう。
国選で受任する場合
当番では、手続き段階として
- 逮捕段階
- 勾留決定後、起訴前
のいずれかがあります。
まず、逮捕段階では、前記の通り、国選対象事件ではありません。国選対象事件となるのは、勾留決定後の全件だからです。
そこで、さらに2通りに分かれます。
- ①勾留決定前援助制度を利用して、勾留決定の前まで私選として受任し、勾留決定の前後で私選を辞任し、勾留決定後に、国選として受任する場合(以下、「国選切替パターン」と略称します。)、
- ②逮捕段階としては、私選として受任せず、勾留決定後に国選として受任する場合
の2通りです。
①の国選切替パターンは手続きが煩雑です。
まず、私選弁護人として受任することになるため、捜査機関に対し、自分が弁護人であることを知らせる必要があります。つまり、弁選の提出を警察署の担当部署に提出する必要があります。
また、援助制度を利用するうえで、申込書に氏名と指印が必要です。この指印に、指印証明は不要です。
そのため、初回接見時には、弁選と申込書の2つを忘れずに持参しましょう。また、後述するように、資力要件として50万円以上有しているが、国選弁護人の選任を受けたいという場合には、不受任通知の交付も行います。
ここで注意点ですが、この場合焦って動いていることが多いため、弁選に指印証明をもらうだけして、提出を忘れてしまいがちですので本当に注意してください。
援助決定が出た場合でも、弁選に受理印があるものの添付がなければ、報酬はもらえません。また、勾留決定前の受理印でなければ、勾留決定前に弁護人になったことを証明できないため、提出しそびれた場合、報酬がもらえる可能性は著しく低下するので気を付けましょう。
事務所に戻ったあとは、援助制度に申し込む必要があります。
申込書の必要事項を記載のうえ、法テラスに提出します。
加えて、当番弁護として接見に行ったということの報告書を弁護士会にFAXで提出します。併せて、私選として受任したこと、国選に切り替える予定であることを報告します。
勾留決定が出たあとは、国選への切り替え手続きを行います。
具体的には、辞任届の原本を検察庁に提出します。その際、弁選と同様に、予め写しを用意しておき、その写しに受理印をもらいます。
辞任届を提出して以降は、国選選任の手続きが開始します。その時点では、原則通り、当日待機している名簿の弁護士に、打診が行ってしまうので、その前に自己を弁護人として選任することの要望を出す必要があります。
具体的には、要望書を法テラスに提出します。
また、裁判所に対しては、受理印ある辞任届の写しと、国選弁護人選任請求書・資力申告書を提出します。FAX不可ですので、直接原本を持参します。
なお、50万円以上の資力を有している場合には、原則国選弁護人の選任を受けることができません。もっとも、資力要件を満たさない場合であっても、弁護人の紹介を受け、受任してもらえなかった場合であれば、国選弁護人の選任を受けることができるようになります。そこで、この場合には不受任通知も裁判所に提出する必要があります。
そして、勾留前援助については、決定時点で終了するので、その活動の報告書を、受理印ある弁選とともに法テラスに提出します。締切は、終了時点(勾留決定時点)から6か月以内です。
ここまでの手続きをまとめると次のようになります。
【受任時点】
- 被疑者に弁選と申込書に署名・指印をもらう。弁選には指印証明をもらい、警察署の担当部署に原本を提出。その際、写しをもらい、その写しにも受理印をもらう。
- 事務所に戻ったら、申込書を法テラスにFAX。
【勾留決定の前の最後の弁護活動が終わった時点、又は勾留決定後すぐ】
- 辞任届(原本)を検察庁の担当部署に提出。予め写しを取っておき、その写しにも受理印をもらう。
【勾留決定後】
- 国選弁護人選任に関する要望書を法テラスにFAX提出。他の弁護人が選任されてしまう前に急ぐ。
- 国選弁護人請求書・資力申告書に辞任届(受理印ある写し)を添付して裁判所に持参。※50万円以上の資力がある場合には、不受任通知も添付。
- 決定後、6か月以内に報告書に弁選(受理印ある写し)を添付して法テラスにFAX提出。
次に、②の逮捕段階では弁護人として受任せず、勾留決定後に国選で受任する場合は、
- 接見時に被疑者に対し、不受任通知を交付し
- 要望書を法テラスに提出し
- 請求書を裁判所に提出し
- 報告書を弁護士会に提出します。
私選で受任する場合
私選で受任する場合には、基本的には、上記①の場合である、勾留決定前に私選として受任し、決定後は国選として受任する場合の国選への切り替えがないだけです。
つまり、まず被疑者に弁選に署名・指印をもらい、指印証明を受け、警察署の担当部署にその写しをもらいつつ、受理印ももらうことになります。
また、初回接見等において、被疑者に対し、弁護士費用の説明を行い、委任契約を締結、契約書の作成も行います。当番弁護からの私選受任ですので、各単位弁護士会ごとに弁護士費用の算定基準があります。
事務所に戻ったら、接見の報告書を作成し、弁護士会にFAX提出します。その際、併せて私選で受任したことを伝え、その報告書を作成・提出し、着手金の一部を特別会費として納めます(ここは各単位弁護士会ごとに運用が異なると思います。)。また、この場合、初回接見についての日当は出ません。
事件終了後は、終了したことの報告書を弁護士会に提出し、併せて報酬金の一部を特別会費として納めます。
不受任とする場合
不受任とする場合には、当該被疑者が国選弁護人の選任を受けることができるようにしてあげる必要があります。
具体的には、接見時に、不受任通知を交付します。
事務所に戻ったら、接見をしたことの報告書を弁護士会に提出します。
報酬算定のための手続き
これまで受任に至るまでの手続きを追ってきました。
受任後、被疑者国選事件では、報酬算定の基準は原則、弁護期間に応じた接見の回数になります。
そのため、被疑者国選事件において、接見をする際には、終了時に報告書に添付するための接見資料の作成を忘れないようにしましょう。
具体的には、接見を申し込む際に、留置係の方に「法テラスの用紙をお願いします。」と伝えれば、申込書の下に敷くためのカーボンシートを受け取ることができます。
接見資料の方の対応する各欄とズレて写ることもありますが、記載事項が正しければ特に問題ないです。
被告人国選では、接見ではなく公判期日の出頭における拘束時間が算定基準になります。
そのため、原則上記接見資料の作成は不要です。
しかし、国選弁護人が選任されたあとに、
- 私選弁護人が選任された
- 別の関連事件に併合された
などの場合には、国選弁護人は解任されます。
そして、第1回公判前に解任された場合、上記の公判期日における拘束時間という算定基準は妥当しません。
そこで、その場合、接見や記録の閲覧・検討などを算定基準にします。
そのため、念のため、被告人国選からの弁護活動の開始だとしても、接見資料の作成はしておくと良いと思います。
おすすめの本
刑事弁護ビギナーズ
修習のころに既に手にしている方も多いと思いますが、初歩の初歩が簡潔にまとまっています。
最初のころは、迷ったらまずはこの本で検索してみるということでいいのではないでしょうか。
なお、2019.3.30に改訂されています。個人事務所だとあっても古いバージョンということもありますので、確認されるとよいと思います。
事例に学ぶ刑事弁護入門
事例形式で、具体的な事案を想定して手続きが解説されています。
新人のころは、「次にどんな手続きがあるのかわからない!」ということが少なくありません。
事例に沿って解説してくれているので、その後の手続きが予想できるようになるという意味で一読の価値はあると思います。
まとめ
以上が受任に至るまでの手続き、報酬算定のために必要な手続きの一通りのまとめです。
これらの手続きは、煩雑でありながら適切にこなしていかないと最悪の場合、無料で弁護活動をしてしまうことにもなりかねません。
そのため、これまで述べてきたことを留意しながら実務にあたって頂けたらと思います。
その後の手続きは、また別の記事で解説しますね。
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